急須を二つ並べて、片方に煎茶、片方にほうじ茶の葉を入れます。煎茶の葉は濃い緑で、ほうじ茶の葉は焙じた茶色です。色はまるでちがいますが、ほうじ茶も緑茶の仲間です。分かれ道は、仕上げのあとの火にあるのです。

湯を注ぐ前から、香りの向きはもう分かれています。

蒸した緑と、焙じた茶色

茶缶のふたを開けると、煎茶の青い香りがすっと立ちます。煎茶は蒸して揉んだ緑茶で、ほうじ茶はそれをあとから焙じたお茶なのです。

表示の決まりでは、煎茶は茶葉を蒸して揉み、乾かしたものです。緑茶は製造のはじめに熱を加え、葉の酵素の働きを止めて緑色を保っています。ほうじ茶は、その煎茶や番茶などを強い火で焙って作ります。

焙じるかどうかの一工程で、名前が分かれるのです。工程のつぎは、口にふくんだ味でしょう。

うま味の煎茶、香ばしいほうじ茶

湯のみに口を寄せると、ほうじ茶からは焙じた葉の匂いがのぼります。煎茶はうま味と渋みに、ほうじ茶は香ばしさに味の中心があるのです。

焙じた茶の葉は、火のなかで中身を入れかえていきます。試験場の測定では、うま味のもとは浅く焙じるだけで大きく減り、深く焙じると見つからなくなりました。渋みのもとも、深く焙じたものでは、もとの五分の一ほどになっています。

そのかわりに、火は香ばしい香りを生みます。公の解説でも、煎茶はほどよい渋みと青々しい香り、ほうじ茶は渋みや苦みがほとんどないとされています。香りのしくみは、ほうじ茶はなぜ香ばしい?焙煎でアミノ酸と糖が香りに変わるに続きがあります。

同じ数字の、ちがう淹れ方

成分表の欄を指でたどると、二つのお茶に同じ数字が並んでいます。浸出液のカフェインは、ほうじ茶も煎茶も同じ値なのです。

ただし、淹れ方の条件は同じではありません。ほうじ茶は多めの茶葉を短く浸し、煎茶は少なめの茶葉を長めに浸して測っています。茶葉そのものの値は、煎茶のほうが高く出ています。

焙じても、カフェインはさほど減らないのです。資料で言えるのは、決まった条件の値までです。減り方の試験は、焙煎でカフェインは減る?で扱っています。つぎは、湯の温度でしょう。

冷ました湯と、沸きたての湯

やかんの湯を湯冷ましに移すと、白い湯気が細くなります。煎茶は冷ました湯で、ほうじ茶は沸きたての湯で淹れるのです。

茶業の研究会がまとめた標準では、上等な煎茶ほど湯の温度を下げ、時間を長くとります。ほうじ茶は熱湯で短く淹れ、焙じた火の香りを引き立てます。

ほうじ茶の淹れ方は、目的別のほうじ茶の淹れ方|濃さ・時間・二煎目の決め方でくわしく読めます。最後は、食後の一杯でしょう。

食後の湯のみに、どちらを

食後の湯のみに、どちらを注ぐか少し迷います。選ぶ手がかりは、味の中心と、湯の温度と、焙じ具合なのです。

うま味や渋みを楽しむなら煎茶、香ばしさを楽しむならほうじ茶です。湯を冷ます手間をかけるか、沸きたてで手早く淹れるかでも分かれます。図鑑には、一番摘みの煎茶を浅めに焙じた、ほうじ煎茶も載っています。

どちらが体によいかは、資料からは決められません。数字と出典は、このあとにまとめて置いておきます。

数字でくわしく

定義
日本茶業中央会「緑茶の表示基準」実施細則の表1は、煎茶を「茶葉を蒸熱、揉捻、乾燥して製造したもの」としています。ほうじ茶は「煎茶や番茶などを強い火で焙って製造したもの」です。
加熱と緑色
農林水産省「味わいや香りもさまざまなお茶の種類」(aff 2022年4月号)は、製造の最初の段階で加熱して酵素を失活させ、緑色を保つと説明しています。煎茶の「程よい渋みと、青々しい爽やかな香り」、ほうじ茶の「渋み、苦みはほとんどなく」も同じページによります。うま味と甘みの説明は、農林水産省「日本茶を楽しむ方法」によります。
うま味のもと
高知県農業技術センター茶業試験場の報告(2013年のデータ)です。一番茶のテアニンは荒茶21.12mg、浅炒1.27mgで、中炒と深炒では検出されませんでした。茶葉1.9gを沸騰水200mLで5分抽出した液100mLあたりの値です。
渋みのもと
同じ報告で、一番茶の深炒のカテキンは、荒茶のおよそ5分の1でした。
カフェイン
日本食品標準成分表(八訂)増補2023年の浸出液100mLあたりの値です。せん茶は0.02g(茶葉10g・90℃の湯430mL・1分)、ほうじ茶も0.02g(茶葉15g・90℃の湯650mL・0.5分)です。茶葉100gあたりは、せん茶2.3g、ほうじ茶1.5gです。
焙煎とカフェイン
同じ試験場の2014年のデータで、深炒は荒茶より6〜13%減り、浅炒はほとんど減りませんでした。
淹れ方の標準
日本茶業中央会のサイトにある「12ヶ月のお茶給食献立集」の表です。煎茶(上級)は70℃・120秒、煎茶(並)は90℃・60秒、焙じ茶は熱湯・30秒です。出典は茶のいれ方研究会(1973年)です。熱湯の理由は、農林水産省のサイトにあるPDF「おいしいお茶の入れ方」によります。
ほうじ煎茶
図鑑の月ヶ瀬健康茶園「有機 一番摘み ほうじ煎茶 月香」の説明によります(2026年9月17日確認)。