ほうじ茶は焙じてあるからカフェインが少ない、という説明は、袋にも、通販のページにも、棚の前の言葉にも出てきます。理由として付いてくるのは、たいてい温度です。高い熱を通すから飛ぶ、昇華して抜ける。言われれば、それらしく聞こえます。ここまでの3節は公表値の側の話でした。残るのは、焙煎そのものです。
焙煎で、カフェインは減るのか
公開されている試験の範囲では、大きくは減っていません。深く焙じたときに6から13%の減少を記録した試験はあります。ただし、その減少が何によって起きたのかは、報告からは読み取れません。
高知県の試験が記録したもの
高知県農業技術センター茶業試験場の報告「焙煎程度とほうじ茶の品質」(研究期間 平成25〜26年度)は、自動連続式のほうじ茶機で焙煎の程度を変え、荒茶を100とした指数でカフェインを並べます。カフェインの表3・表4は2014年のデータで、一番茶は浅炒101・深炒94、刈番茶は浅炒99・深炒87。要約は、浅炒はほとんど減らず、深炒は6から13%減少した、です。
この試験の焙煎は2回に分かれ、1回目は排気温90℃でドラムが毎分22回転、2回目は排気温100℃です。カフェインを測った2014年の表3・表4は浅炒と深炒の2段で、変えているのは2回目の回転数、浅炒17回転、深炒10回転です(同じ報告書でカテキンを測った2013年の表は浅炒・中炒・深炒の3段で、一番茶は17・12・8回転)。回転が遅いほど、茶葉は機械の中に長くとどまります。記録されているのは排気温と回転数だけです。
もっと高い温度の記録と、測っている場所の違い
もっと高い温度の記録もあります。1981年の報告は、緑茶の荒茶を熱風循環式の電気定温器に入れ、器内温度130℃で30分、160℃で30分加熱しました。アミノ酸類・ビタミンC・遊離還元糖が著しく減ったのに対して、カフェインは「ほとんど差がなかった」と本文にあります。
2つは、測っている場所が違います。100℃は焙煎機から出る空気の温度、130℃と160℃は定温器の中の温度で、1本の軸には並びません。
実際の焙煎温度帯は、空いたまま
外側は、空いたままです。棒茶をドラム式の焙煎機で焙じた2020年の実験は、製造業者の助言をもとにドラムの内面を180℃・200℃・220℃に設定しました。この温度帯でカフェインを測った公開データは、今回の範囲では見あたりません。
昇華の筋も見ておきます。よく引かれる昇華の温度の値は、公的な化学データベースに見あたりません(下の囲み)。
焙じる前の茎の値と、コーヒーで割れている同じ問い
焙じる前の荒茶でも、同じ試験場の測定で茎茶は一番茶の77%でした。ただし表3は茶期の並びに茎茶を1行足したもので、葉と茎を比べた値ではありません(第7章)。
同じ問いは、コーヒーでも割れています。2024年のフィルターコーヒーの研究は、淹れ方をそろえると深煎りのほうが低く、抽出の歩留りをそろえると深煎りのほうが高い、と報告しました。そろえる場所を変えると答えが変わる、という形だけが共通しています(原料も抽出法も違うので、ほうじ茶には当てはめられません)。
6から13%は、どこへ行ったのか
では、深炒りの6から13%はどこへ行ったのか。熱で壊れたのか、細かく砕けて粉として落ちたのか、報告は書いていません。仕組みは、いまのところ分かっていないままです。焙じているあいだ、大きく動かずにいたのはカフェインでした。では、動いているのは何なのか。第2部は、条件を1つずつ変えながら、そこを見ていきます。
