べつべつの店で買った「深煎り」の袋が、台所の机に二つ並んでいます。封を切ると、茶葉の色がどこかちがって見えます。裏を返すと、名前の欄にはどちらも「ほうじ茶」とあるだけです。浅い・深いの言葉は、表の側にしか書かれていないのです。

この文章では、その言葉をだれが決めているのか、決まりと棚はどうなっているのかを、順にたどっていきます。

同じ二文字が、上と下を指す

二つの袋の値札を見くらべると、深いほうが安い店もあれば、高い店もあります。浅い・深いを決めているのは、その袋を売る店なのです。

同じ「上」という言葉が、川上にも、坂の上にも使われるのと似ています。古くからの茶舗には、高いお茶ほど浅く炒ると書くところがあります。そこでは、深く炒ったものは値の下がる側に置かれているのです。

いっぽうで、深さの名前を並べて売る店や、「深炒り」を商品名にする大手もあります。そちらでは、深いことが腕の見せどころです。資料で言えるのは、言葉の向きが店ごとに逆にもなる、というところまでです。店の言葉のつぎは、袋の裏の決まりでしょう。

裏の小さな表に、席はない

袋を裏返すと、小さな字の表が目に入ります。業界の決まりが定めているのは、お茶の名前までなのです。

決まりにあるのは「ほうじ茶」をふくむ茶の名前で、深さの呼び名は入っていません。表の中に書くことも、表の外に書けることも、項目が決められています。浅煎り・深煎りは、そのどちらにも入っていないのです。深さが表の外にあるのは、店の手抜きではなく、表の中に席がないからです。

焙じる温度の数字は、決まりの別紙に一度だけ出てきます。分けているのは深さではなく、袋に「製造者」と書くか「加工者」と書くかの線です。資料で言えるのは、深さの物差しはどこにも書かれていない、ということまでです。決まりのつぎは、店の棚でしょう。

画面の棚を、ひとつずつ開く

店の公式の売り場を一つずつ開いていくと、画面の向こうに袋がずらりと並びます。深さの言葉を使う店は、ほんの一部なのです。

数えてみると、深さを書いていた店は、四つに一つにも届きませんでした。ほかの店は、葉か茎かという部位や、金印や極上といった等級で分けていました。砂炒りや二度焙じのような、作り方で分ける店もあります。

焙じる温度や時間まで明かしている店は、見あたりませんでした。資料で言えるのは、深さの言葉が棚の中では少ないほうだ、というところまでです。店の名前と数えた日は、このあとにまとめて置いておきます。

表 6-1-118社は、ほうじ茶の商品を何で分けていたか(2026年9月24日に各社の公式サイトで確認)

分け方(社数)事業者
焙煎の深さを表す言葉(4社)中村藤吉本店(「炒りが浅い」)/藤田茶園(「深焙り」「浅焙り」)/HOJICHA CO.(Light Roast・Gold Roast・Dark Roast)/伊藤園(「深炒り」)
部位(葉/茎)(4社)福寿園/新井製茶/キリン/うおがし銘茶(くきほうじの等級)
等級・雅号(3社)上林春松本店/祇園 北川半兵衛/茶三代一
製法・工程(4社)カネ十農園/山政小山園/土山一晩ほうじ/ルピシア(二段階火入れ)
産地・認証、または説明なし(3社)伊藤久右衛門/お茶の井ヶ田/大井川茶園
18事業者の公式サイトを、2026年9月24日に開いて数えた実査。1社は1つの群にだけ置き、複数の軸を使う社は主な軸の群に入れた。焙煎の温度・時間を公開していた社は0社で、数値が出てくるのは、すべて淹れ方のほう。上林春松本店・うおがし銘茶・伊藤久右衛門・お茶の井ヶ田の4社はページがJavaScriptで描かれるため、同じ日にブラウザで開き直して本文を読んだ。記載はすべて販売元が自社の商品について書いた説明で、成分の測定にもとづくものではない。

数字でくわしく

浅い炒りの説明
中村藤吉本店(京都・宇治)は「価格の高いものほど、炒りが浅いので、褐色が薄くなる。」と書いています。
深さを名にする店
オンライン専業のHOJICHA CO.は、深さを商品名にしています。名前は、Light Roast・Gold Roast・Dark Roastです。伊藤園は「深炒り」を商品名にしています。
表示の決まり
日本茶業中央会の「緑茶の表示基準」が定める名称は、「ほうじ茶」を含む17種です。焙煎度の呼び名は入っていません。
表示の項目数
義務表示は11項目、任意表示は7項目です。任意表示は「一括表示の欄外に記載するもの」とされ、焙煎度はどちらにもありません。
別紙の温度
焙じる温度は、同じ基準の別紙の工程表に一度だけ出てきます。分けているのは焙煎の深さではなく、「製造者」と「加工者」の区分です。
18社の実査
18の事業者の公式サイトを、2026年9月24日に開いて数えました。焙煎の深さの言葉を使っていたのは4社です。
使われた言葉
4社が使っていたのは「炒りが浅い」「深焙り」「深炒り」「Dark Roast」でした。
残る14社
部位、等級、製法などで商品を分けていました。焙煎の温度や時間を公開していた社は、1社もありませんでした。