店の棚に、煎茶、番茶、茎茶、玄米茶、ほうじ茶の袋が並んでいます。名前が五つあると、五つの飲み物に見えるものです。袋を裏返すと、原材料の欄に「緑茶」とだけ書かれていることがあります。名前は五つでも、もとは一つなのです。
この文章では、名前が指しているもののちがいと、仕上げの段階で入る火のちがいを、順に見ていきます。
同じ高さに並ぶ、ちがう名前
袋を手に取ると、どれも同じくらいの軽さです。けれど五つの名前は、中身の上では同じ高さにないのです。
名前によって、指している層がちがいます。作り方を指す名前と、使う部位を指す名前と、合わせる材料を指す名前が、一つの棚に混ざっているのです。名前が教えてくれるのは、どの層の話かというところまでです。層の中身は、つぎの節でほどけていくでしょう。
焙じる、茎、炒った玄米
玄米茶の袋をのぞくと、茶葉のあいだに丸い粒がまじっています。ほうじ茶は作り方を、茎茶は部位を、玄米茶は合わせる材料を指すのです。
国の説明にならうと、ほうじ茶は焙じること、茎茶は茎、玄米茶は炒った玄米を名前にしています。層がちがうので、「茎を焙じたほうじ茶」という組み合わせも成り立つのです。名前が指す火は、お茶ができあがったあとに入る火です。
業界の表示の決まりも、作り方だけを書いています。強い火で焙って作ったもの、とあるだけで、原料を番茶にかぎる一文はないのです。研究で焙じられているのも、一番茶の茎でした。資料で言えるのは定義の文面までで、つぎは火の入る位置でしょう。
はじめの火と、あとの火
棚の端に、釜炒り茶の袋が置かれています。「炒る」の字が、ほうじ茶と同じように目に入ります。同じ「炒る」でも、火が入る位置はちがうのです。
釜炒り茶の火は、作りはじめのいちばん最初に入ります。その熱が、茶葉の酵素の働きを止めるのです。焙じる火は、仕上がったお茶にもう一度入る火です。
資料で言えるのは、工程の上での位置のちがいまでです。仕上げの側には、もう一つの火が待っています。
仕上げの棚の、もう一つの火
お茶を仕上げて売る店の奥には、荒茶を乾かし直す火があります。火入れも、焙じる火と同じ仕上げの棚にあるのです。
火入れは、荒茶をもう一度乾かし、香りを立たせる工程です。狙う水分の値まで決まっていて、その話は火入れと焙じるの境目を見る章にあります。国の研究所の解説では、荒茶の仕上げは選り分け、火入れ、合組の三つです。その工場を持つのは、多くが茶を育てる側ではなく、売る側なのです。
焙じる火と火入れは、温度の幅も重なっています。それでも別の工程と呼ばれるのは、時間のかけ方と、目的と、評価がちがうからです。目的と評価のちがいは、火が入る段階のちがいから来ているのです。
資料で言えるのは、ちがいの軸がそこにあるというところまでです。数字と出どころは、このあとにまとめて置いておきます。
数字でくわしく
- 名前の層
- 層の分け方は、農林水産省の説明にならっています。ほうじ茶は焙じる作り方、茎茶は茎という部位、玄米茶は炒った玄米という材料を指します。
- 表示の決まり
- 日本茶業中央会「緑茶の表示基準」の実施細則は、ほうじ茶を「煎茶や番茶などを強い火で焙って製造したもの」としています。原料を番茶に限る一文はありません。
- 茎の実験
- 石川の2020年の実験が焙じているのは、鹿児島県産の一番茶の茎です。
- 釜炒り茶
- 九州が中心のお茶で、火は製造のいちばん最初に入り、茶葉の酵素の働きを止めます。
- 再製の三工程
- 農研機構の野菜茶業研究所の解説は、荒茶の再製を選別・火入れ・合組の三工程としています。再製工場を持つのは、茶の流通業者が大半だと書いています。
- 水分の値
- 火入れで狙う水分の値は、「火入れと焙じるの、境目はどこにあるか」の節にあります。

