棚の一角に、細い棒のような茶葉の袋が並んでいます。「茎茶」「棒茶」「かりがね」「白折」と、名前はまちまちです。中身はどれも茶の茎で、指すものはほとんど重なっています。名前が分かれているのは、産地と店のならわしがちがうからなのです。

この文章では、名前の奥にある中身のちがいを、焙じる前とあとに分けて見ていきます。

焙じる前の、葉と茎

乾いた茎を指でつまむと、葉よりも軽く、かすかに青い匂いがします。焙じる前なら、茎はうま味が多く、渋みは少なめなのです。

茎にはアミノ酸が多く、渋みのもとのカテキンとカフェインは葉より少なめです。古くからの茶の団体も、茎茶の別名をいくつも挙げ、店ごとの呼び分けにふれています。

ただ「何倍」は一つに決まらず、その差が焙じたあとまで残るともかぎりません。資料で言えるのは、焙じる前の原料としてなら、というところまでです。つぎは、茎と葉が分かれる場面でしょう。

火の手前で、茎と葉は分かれる

茶畑から届いた葉は、蒸されて揉まれ、乾かされて荒茶になります。茎と葉が分かれるのは、焙じるより前なのです。

業界の決まりは、茎茶を、仕上げの工程で機械などで選び分けた、茎や葉柄を多くふくむ茶と定めています。選り分けは、荒茶になったあとに行われます。火を入れる手前から、中身はもう分かれているのです。

資料で言えるのは、ちがいが焙煎より前に生まれている、というところまでです。分かれたあとの差の大きさは、研究によってちがいます。

何倍かは、研究ごとに

論文を並べると、茎のうま味を何倍と書く数字が、ばらばらに散っています。倍率は、研究ごとにちがうのです。

葉の半分ほどと書いたものもあれば、若い茎でずっと大きな差が出たものもあります。比べた相手も、品種も、季節もちがうからです。

同じ条件で並んだ実測では、茎茶のカフェインは一番茶の八割に近い値でした。ただしこれは、時期ごとの荒茶の並びに茎茶を一行足したものです。同じ芽を葉と茎に分けた比較ではなく、資料で言えるのはそこまでです。差のわけは、別の分野から見えてきます。

表 7-1-1葉と茎の成分を比べた5つの研究 ― 試料・条件・焙じる前か後か

出典試料(何と何を比べたか)測定・抽出条件焙じる前か後か結果
三輪ら(1978)葉位別の茶葉(葉と茎)―焙じる前茎はアミノ酸が約2倍、タンニン・カフェインが約1/2(この数値表現は原ら1993の要約によるもの。原著は定性的な記述)
笹木ら(2015)同一の茶樹から採った茎と葉―焙じる前茎のアミノ酸が約1.5倍
Zhangら(2025)中国の11品種の新芽の茎と葉―焙じる前茎/葉のテアニンが3.8〜8.8倍(茎どうしの差は2倍未満、葉は最大3.4倍)
高知県(表3・2014年)茶期別の荒茶の並びに茎茶を1行足したもの(葉と茎を対にした比較ではない)粉砕茶葉1g・熱湯約80mL・80℃で30分抽出・100mLに定容(飲むお茶の濃さではない)焙じる前茎茶のカフェインが一番茶の77%
原ら(1993)市販の茎茶と中級煎茶 各1点(1991年)―焙じる前茎茶はカテキン類・カフェイン・しょ糖が少なく、テアニンとキナ酸カリウム塩が多い
5件とも焙じる前の比較です。焙じたあとを葉と茎で並べた実測は、香りの成分についてはあります(「茎が浅い焙煎で使われる理由」の節の表 7-2-1)。呈味成分については、この表に入る行がありません。比べた相手・品種・季節・測り方が違うので、倍率を行どうしで比べることはできません。「―」は条件をこの表に載せていない行。出典:三輪悦夫ほか 茶業研究報告47(1978)/笹木哲也ほか におい・かおり環境学会誌46(2)(2015)/Zhang S. ほか Plant Physiology 198(3)(2025)/高知県農業技術センター茶業試験場「焙煎程度とほうじ茶の品質」表3(2014年のデータ)/原利男ほか 茶業研究報告78(1993)。

茎か葉かの前に、いつ摘んだか

春の茶畑では、伸びたばかりの芽がやわらかく光っています。茎か葉かの前に、いつ摘んだかという軸があるのです。

若い芽の中で、うま味のもとは茎に集まりやすいことがわかってきました。アミノ酸を運ぶしくみを調べた植物の研究が、それを示しています。古い調査でも、早く摘むほどうま味のもとは多く、季節で大きく動いていました。

資料で言えるのは、茎のちがいは摘む時期とからみ合う、というところまでです。ここまでは、すべて焙じる前の話です。

焙じたあとに、残るもの

焙じた茶葉からは、もう青い匂いはせず、香ばしさが部屋に広がります。焙じたあとは、うま味のもとがほとんど残らないのです。

県の試験場が焙じる深さごとに測ると、うま味のもとは浅く焙じた段階で大きく減りました。中ほどと深いものからは、見つからなかったのです。この試験は時期ごとの荒茶を焙じたもので、茎を焙じた値は同じ表にありません。

資料で言えるのは、茎はうま味が多い、という話は荒茶までだということです。研究の名前と数字は、このあとにまとめて置いておきます。

数字でくわしく

茎茶の別名
京都府茶業会議所は、茎茶の別名として折・白折・棒・骨・雁ヶ音を挙げています。「雁ヶ音は玉露の茎茶のことを表す店舗もあります」と注があります。八女の茶商は、同じものを白折と呼びます。
表示の決まり
「茎茶又は棒茶」の定義は、日本茶業中央会の「緑茶の表示基準」にあります。「荒茶の仕上げ工程で木茎分離機などで選別された茶の茎や葉柄を多く含む茶」です。
倍率の幅
葉の約2分の1とするものから、若い茎で8倍以上とするものまであります。三輪ら(1978)、笹木ら(2015)、Zhangら(2025)、原ら(1993)などです。
カフェイン
高知県農業技術センター茶業試験場の報告の表3で、茎茶は一番茶の77%でした。粉砕した茶葉1gを80℃で30分抽出し、100mLに定容した液です(2014年)。
表の茎茶
表3の「茎茶」が茎だけか混合かは、報告にありません。
新芽の研究
2025年の植物生理学の論文は、11品種の新芽でアミノ酸を配る輸送体を特定しました。若い茎が、テアニンの主な集積先だと報告しています。
摘む時期
1962年の静岡の調査は、摘採が早いほどテアニンが多く、季節による変動が大きいとしています。
焙じたあと
同じ試験場の表2(2013年)で、一番茶のテアニンは荒茶21.12mg、浅炒り1.27mgでした。中炒りと深炒りでは検出されていません。
抽出の条件
茶葉1.9gを沸騰水200mLで5分抽出した浸出液100mLあたりです。一番茶・刈番茶・二番茶の荒茶を焙じた試験です。