店の棚に、「浅煎り」と「深煎り」の袋が並んでいます。手に取ると、かさりと乾いた音がします。裏を返しても、焙じた深さを表す言葉はどこにもありません。浅い・深いは、表の側にだけ書かれているのです。
この文章では、深さで変わるものと、深さだけでは決まらないものを、色、香り、味の順にたどっていきます。
棚ごとにちがう、浅いと深い
袋を二つ並べると、紙の色まで少しずつちがって見えます。浅い・深いの線は、店ごとに引かれているのです。
山の呼び名が、ふもとの村ごとにちがうのと似ています。表示の決まりが定めるのは「ほうじ茶」などの名前までで、深さの言葉は入っていません。古くからの茶舗は高いお茶ほど浅く炒ると書き、深炒りを看板にする店もあるのです。
研究の資料でも分け方はまちまちで、資料で言えるのは、同じ棚の中での比べ方までです。研究と店の言葉を突き合わせた話は、ほうじ茶の焙煎度は店をまたいで比べられる?に続きがあります。袋の言葉を読んだら、つぎは湯のみの色でしょう。
金色と、赤みのある茶色
白い湯のみに注ぐと、まず色が目に入ります。深いほど、色は赤みを帯びるのです。
秋の落ち葉が日を追って色づくように、焙じる時間とともに赤みは増していきます。茶商の説明でも、浅煎りの湯は金色、深煎りは赤みのある茶色です。県の試験場が茶葉の色を測った数字でも、深煎りははっきり赤く出ました。
ただ、色の数字は測り方で変わります。資料で言えるのは、白い紙に並べて見えるちがいまでで、どこから深煎りかの線は引けないのです。色のつぎは、湯気の香りでしょう。
湯気の香ばしさは、浅いほうに
湯のみに顔を寄せると、湯気といっしょに香ばしさが立ちのぼります。その香ばしさは、深く焙じるほど強くなるとはかぎらないのです。
県の試験場が温度をそろえて深さだけを変えると、香ばしい香りの成分は浅煎りに多く出ました。別の県の実験で深さをそろえて温度を上げると、同じ仲間の成分は増えています。問いがちがうので、片方だけを持ち出すと、結論は逆さまになるのです。深さと香りの話は、深煎りほうじ茶ほど香ばしい?でゆっくり読めます。
深く焙じると、温度を変えても香りの組み合わせはほぼ同じでした。作り方のちがいが香りに出やすいのは、浅く焙じたほうなのです。花のような香りのもとは、糖と結びついて茶葉に入っています。焙じる熱でほどけて立ちのぼり、焙じ進めるほど割合は下がっていきます。
花の香りを残したいなら浅く止める、資料で言えるのはそこまでです。茎のお茶が浅めに焙じられるわけは、茎ほうじ茶が浅煎りで使われる理由で確かめられます。香りのあとは、舌にのこる味でしょう。
渋みは引いて、カフェインはほぼそのまま
ひと口ふくむと、舌のうらに渋みがのこります。深いほど渋みのもとは引き、カフェインはほとんど変わらないのです。
熟れていく柿から渋がぬけるように、焙じるほど渋みのもとは減っていきます。県の試験場の数字でも、深煎りの渋みのもとは浅煎りの三分の一ほどでした。カフェインは深煎りでいくらか減るくらいで、浅煎りは焙じる前とほぼ同じです。
カフェインが減ったわけは報告から読みとれず、数字は焙煎でカフェインは減る?にまとめてあります。深く炒るほど苦味の側に動くと説明されるコーヒーとは、ここで向きが分かれます。深煎りはミルクに合うとすすめる茶商もいますが、資料で言えるのは、渋みのもとが少ないところまでです。ラテとの相性は、ほうじ茶ラテに深煎りは向く?で扱っています。
湯や時間を深さで変えるかどうかは、浅煎りと深煎りで淹れ方を変える?に続きがあります。数字と試験の条件は、このあとにまとめて置いておきます。
湯の熱さは、茶期で分ける
やかんが鳴りはじめ、急須に湯をそそぐ前の短い間があります。湯の熱さや待つ時間を、深さで変える決まりはないのです。
茶商や団体が公開している淹れ方を見わたしても、深さで湯を分ける案内は見当たりません。数字を分けている茶園もありますが、分け目は原料の茶期でした。二番や三番に摘んだ葉のほうじ茶は熱湯でさっと淹れます。一番茶のほうじ茶は、少しさました湯でゆっくり淹れるのです。
よく並べて語られる品どうしも、深さと深さの比べにはなりません。浅く焙じた茎の茶と、直火で深く焙じた茶は、原料も茶葉の量もちがう別のお茶です。湯の熱さと待つ時間の案内は、浅煎りと深煎りで淹れ方を変える?で見くらべられます。
「強い火で焙じる」は焙じ方の言葉で、「深煎り」は仕上がりの言葉です。ある茶舗は、玉露や煎茶から選り分けた茎を、強い火で焙じて売っています。その隣には、弱めの火で浅く焙じた品も並んでいるのです。二つのちがいは、ほうじ茶の「強火」と「深煎り」の違いで扱っています。
焙じ分けた粉を売る茶商も、浅いほうに茎を、深いほうに二度焙じた葉を当てています。深さの言葉は、葉か茎か、何番茶かと組になって袋にあるのです。資料で言えるのは、湯を決めるのは原料の側だというところまでです。色を自分の目で並べるなら、つぎは台所の火でしょう。
台所で、三つの深さに焙じる
フライパンを火にかけると、茶葉がぱちぱちと小さく鳴りはじめます。同じ茶葉を三度に分けて焙じれば、深さのちがいは台所でも見えてくるのです。
道具も茶葉の量も火加減もそろえ、変えるのは火を止めるまでの時間だけです。焙烙がなければ、フライパンで足ります。茶葉は短いあいだに色を変えるので、焙じるあいだは火のそばを離れません。
続けて焙じると、温まった鍋のぶんだけ早く進みます。一回ごとに、濡らした布巾の上で鍋を冷まします。火から下ろしても余熱で焙じは進むので、冷ますところまでが一回なのです。
冷めたら白い紙の上に浅い順に並べ、同じ場所と明るさで写真に残します。同じ急須、同じ湯、同じ待ち時間で淹れ、香りを一語ずつ書きとめます。いちばん香ばしく感じるのが、まん中の一杯ということもあるのです。
どれがいちばんおいしいかまでは、資料では決められないのです。手順は、家でほうじ茶を3段階に焙じ分けるにくわしく書いてあります。湯のみが三つ並んだら、あとは知りたいことの順に読みすすめればよいでしょう。
湯のみを置いて、次の頁へ
湯のみの底に、うすい茶色の輪がのこっています。続きは、知りたいことの順に選ぶのがいちばんなのです。
袋の言葉をだれが決めているのかは、ほうじ茶の「浅煎り・深煎り」は誰が決める?が入り口になります。研究の段階と店の言葉を突き合わせた話は、ほうじ茶の焙煎度は店をまたいで比べられる?に置いてあります。
香りのことなら、深煎りほうじ茶ほど香ばしい?と茎ほうじ茶が浅煎りで使われる理由があります。ミルクとの相性はほうじ茶ラテに深煎りは向く?、カフェインは焙煎でカフェインは減る?が受けもちます。どれも、試験の条件まで載せています。
淹れ方の案内をくらべたいときは、浅煎りと深煎りで淹れ方を変える?が手がかりです。台所で焙じるなら、家でほうじ茶を3段階に焙じ分けるが手もとにあると心強いのです。焙烙とフライパンの扱いは、ほうじ茶の作り方|焙烙とフライパンで茶葉を焙じる手順にあります。次の一杯を淹れるあいだに、どれから開くかは決まるでしょう。
数字でくわしく
- 表示の決まり
- 日本茶業中央会の「緑茶の表示基準」が定める名称は、ほうじ茶を含む17種です。焙煎度の呼び名は、義務表示の11項目にも、任意表示の7項目にも入っていません。
- 18社の表示
- ほうじ茶を扱う18社の公式サイトのうち、深さの言葉を使っていたのは4社でした。焙じる温度や時間まで公開している社は、ありませんでした。確かめたのは、2026年9月24日時点です。
- 店ごとの言葉
- 中村藤吉本店は「価格の高いものほど、炒りが浅いので、褐色が薄くなる。」と書いています。伊藤園は「深炒り」を商品名にしています。湯の色を金色・赤褐色と説明しているのは、流芳園です。
- 色の数値
- 色の試験は、高知県農業技術センター茶業試験場のものです。2014年の試料で、粉にして測った一番茶の赤みの値 a* は浅炒1.34、深炒5.11でした。石川県の2020年の報告は茶葉のまま測り、赤みより明るさ L* と黄み b* を見るよう勧めています。
- 香りの試験(高知)
- 高知県の試験は、一番茶(2013年)を排気温100℃のまま焙じています。ドラムの回転を毎分17・12・8回転と変えて、三段階を作りました。香ばしさの指標にしたピラジン2種は荒茶には無く、一番茶と刈番茶では浅炒に多く、二番茶では差がありませんでした。花の香りの成分は、リナロールが浅炒、ゲラニオールが中炒でいちばん多くなりました。
- 香りの実験(石川)
- 石川県工業試験場などの2020年の実験では、茎をドラム内面180〜220℃で焙じています。香りに寄与する8種のピラジンは、どれも温度が高いほど増えました。深く焙じた場合は、温度を変えても成分の組み合わせはほぼ同じでした。
- 渋みの数値
- 渋みは、一番茶(2013年)の茶葉1.9gを沸騰水200mLで5分出し、液100mLあたりで比べています。カテキンの合計は、荒茶34.89mg、浅炒21.86mg、中炒14.59mg、深炒6.98mgでした。種類ごとに見ると、浅炒でいったん増えてから減るものもあります。
- カフェイン
- カフェインは2014年の別の試料で、荒茶を100として比べています。一番茶は浅炒101・深炒94、刈番茶は浅炒99・深炒87で、深炒は6〜13%少ない計算です。
- 淹れ方の29件
- コーヒーの焙煎と苦味の説明は、全日本コーヒー協会によります。淹れ方は、茶商・メーカー18社と公的機関・団体11件の公開ページ29件を見ています。確認日は2026年9月22日です。湯温や時間を分けていたのは藤田茶園の1件で、分け方は原料の茶期でした。
- 茶期で分ける例
- 淹れ方で数字を分けていたのは、藤田茶園です。二番茶・三番茶が原料のふつうのほうじ茶は茶葉3〜4gを熱湯で30秒、一番茶のほうじ茶は2〜3gを80〜90℃の湯で1分としています。
- よく例に出る二品
- よく例に出る二つは、丸八製茶場の献上加賀棒茶(浅く焙じた茎)と、美濃加茂茶舗の「直火深煎りほうじ茶」です。前者は6gに熱湯260mLで25秒、後者は約5gに約80℃の湯180mLで1分としています。
- 強火と深煎り
- かりがね(玉露や煎茶を作るときに選り分けられる茎)を強い火で焙じた品と、弱めの火で浅く焙じた「浅炒りほうじ茶」を並べているのは、京都の舞妓の茶本舗です。焙煎度別のパウダーは丸安茶業の発表によるもので、浅煎りに棒ほうじ茶、中煎りに茎と葉、深煎りに二度焙煎した茶葉を当てています。
- 余熱
- 火から外しても余熱で焙煎が続くという説明は、茶小泉のフライパンの手順によります。
