店の棚に、浅煎りと深煎りが並んでいます。袋の窓からのぞく茶葉は、隣に置くと別のお茶に見えます。ところが裏を返すと、淹れ方の数字は同じままなのです。
この文章では、深さで淹れ方を分けている案内を探し、数字が実際に変わっている軸を、棚、店の言葉、研究の順に見ていきます。
裏の数字は、同じ一行
二つの袋を裏返して並べると、小さな字の淹れ方が同じ顔をしています。深さで湯や時間を分けている案内は、公開されているものには見当たらないのです。
淹れ方を数字で出している茶商や団体を当たっても、深さで書き分けた例はありませんでした。分けている例がひとつだけあり、その軸は焙じ方ではなく原料の茶期です。ふつうのほうじ茶は熱湯で短く、一番茶を使ったものは少しぬるめで長めに、という分け方です。二番茶や三番茶の原料には、うま味のもとが少ないからだとされています。
その一件は一つの茶園の公開値で、業界の決まりではありません。資料で言えるのは、袋の「浅」「深」より茶期のほうが、いま数字に表れた手がかりだということまでです。その分け方は、下の図に並べてあります。数字のつぎは、同じ棚に並ぶ袋の言葉でしょう。
図 3-2-1袋に書かれている言葉と、数字が実際に変わっている軸
| 軸 | 区分 | 公開されている淹れ方の条件 |
|---|---|---|
| 袋の表に書いてある言葉 | 浅煎り | 数字のある27件とも、焙煎度で書き分けなし(各社の幅は80〜100℃・25秒〜約4分) |
| 袋の表に書いてある言葉 | 深煎り | 数字のある27件とも、焙煎度で書き分けなし(各社の幅は80〜100℃・25秒〜約4分) |
| 数字が変わっている軸(藤田茶園1件) | 二番茶・三番茶が原料=一般的なほうじ茶 | 3〜4g・熱湯・30秒 |
| 数字が変わっている軸(藤田茶園1件) | 一番茶が原料=一番茶を使ったほうじ茶 | 2〜3g・80〜90℃・1分 |
同じ棚の、ひとつの淹れ方
浅炒りと、かりがねのほうじ茶が、ひとつの店の棚に並んでいます。並べて売っていても、淹れ方は店で一本なのです。
その店の淹れ方は、サイト共通のひと組だけでした。湯をぬるめにすすめる案内もわずかにありますが、どれも深さを理由に挙げていません。味のちがいのほうは、言葉になっています。浅煎りは緑茶のうま味を生かした上品な香ばしさ、深煎りはほのかな甘みの香ばしさ、と説く茶商もいます。
ただ、その説明の記事にも商品のページにも、湯の温さと時間の指定はありません。資料で言えるのは、味は言葉で分けられても、湯は分けられていないところまでです。棚のつぎは、よく引き合いに出される二つの袋でしょう。
淡い茎の茶と、直火の深煎り
淡い色の茎の茶と、黒みがかった深煎りの葉。この二つは、焙じ方の深さを比べる例としてよく持ち出されます。けれど、比べる相手にはならないのです。
浅く焙じた茎の茶は熱湯で短く、直火の深煎りはぬるめの湯で少し長く淹れるよう案内されています。深さは逆でも、原料も茶葉の量もちがう別の商品です。袋の「浅」「深」という言葉に、店をまたいだ基準がないことは、第6章で扱っています。
資料で言えるのは、二つの淹れ方がちがうことまでで、そのわけが深さだとは言えません。商品のつぎは、研究の側の湯のみでしょう。
研究で動かすのは、時計
研究の場では、同じ湯のみがいくつも並び、時計の針だけが進んでいきます。動かされているのは、深さではなく時間のほうなのです。
ほうじ茶を含むいくつかの茶を、待つ時間だけ変えて、煎を重ねて調べた報告があります。長く置くほど溶け出す量は増えますが、ある長さで頭打ちになりました。
ほうじ茶の湯は沸かした湯に決めたままで、温さは動かしていません。資料で言えるのは、時間の効き方までです。時計のつぎは、条件をそろえた比べ方でしょう。
そろえた急須で、深さだけを
同じ急須、同じ量の葉、同じ温さの湯。そろえた台の上でなら、深さのちがいだけが湯のみに出るはずです。
同じ原料から作り分けた浅炒りと深炒りを、そろえた条件で比べるところから始めます。動かすのは深さと待ち時間だけです。香り、渋み、甘みを、銘柄を伏せて順位づけし、色も一緒に書き留めます。
その結果は、まだここには書いていません。資料で言えるのは、比べ方の型までです。くわしい条件は、このあとにまとめて置いておきます。
数字でくわしく
- 当たった29件
- 茶商・メーカー18社と公的機関・団体11件、あわせて29件を集め、淹れ方のページがない2件を除く27件を数字で比べました。焙煎の深さで湯温や時間を書き分けている案内は、1件もありませんでした。確認日は2026年9月22日です。
- 茶期の書き分け
- 藤田茶園「お茶日和」の1件です。一般的なほうじ茶は3〜4g・熱湯・30秒、一番茶を使ったほうじ茶は2〜3g・80〜90℃・1分です。前者の原料が二番茶や三番茶で、旨味成分が少ないことを理由に挙げています。
- 同じ棚の一本
- 浅炒りとかりがねのほうじ茶を並べて売っているのは、舞妓の茶本舗です。淹れ方はサイト共通の1本で、15g・熱湯650mL・30秒です。
- 80℃台の2件
- 数字のある27件のうち80℃台を勧めているのは2件で、どちらも理由に焙煎の深さを挙げていません。
- 味の説明
- 浅煎り・深煎りの味の説明は、流芳園のものです。浅煎りは「緑茶の旨味を活かした上品な香ばしい香り」、深煎りは「強くローストしたほのかな甘みの香ばしさ」とあります。記事にも商品ページにも、湯温と時間の指定はありません。
- 茎の棒茶
- 丸八製茶場の献上加賀棒茶は、浅く焙じた茎の茶です。6gに熱湯260mLを注いで25秒です。
- 直火の深煎り
- 美濃加茂茶舗の直火深煎りほうじ茶は、約5gに約80℃の湯180mLで1分です。
- 時間を振った研究
- 米田泰子・加藤佐千子の1994年の報告です。ほうじ茶を含む6種を、浸出時間0.5分から4分まで振って3煎ずつ調べています。延ばすと溶出量は増え、3〜4分で横這いになりました。ほうじ茶の湯は沸騰湯に固定です。
- 比べる条件
- 茶葉3g、湯150mL、湯温90℃、器は同じ急須です。待ち時間は30秒と60秒で、各条件3回、あわせて12回淹れます。香り・渋み・甘みを3人のブラインドで順位づけし、色と一緒に記録します。
