棚の奥から、口をクリップで止めた袋が出てきます。いつ開けたのかは、もう覚えていません。鼻を近づけると、匂いはちゃんとします。ただ、比べる相手のほうが先に消えているのです。

この文章では、置いた茶から何が先に落ちるのかを、試験と店の案内からたどります。

クリップをはずした、袋の匂い

クリップをはずすと、かすかな香ばしさが鼻に届きます。何日もつかは答えられず、わかるのは落ちる順番なのです。

先に落ちるのは香りと見た目で、渋みのもとはあまり動きません。この順番は、煎茶を長く置いた試験から読みとれます。

ほうじ茶で日数を測った資料は見つからず、資料で言えるのは順番までです。つぎは、その試験の袋の並びでしょう。

暗い棚に並んだ、煎茶の袋

暗い棚に、同じ煎茶の袋がいくつも並んでいます。条件の悪い袋ほど、香りは速く落ちるのです。

袋の通しにくさ、中の空気の入れ替え、温度を組み合わせ、間をおいて審査にかけた試験です。暖かい部屋に透明な袋で置いた茶は、一年でいちばん低いところまで下がりました。アルミの袋なら落ち方はゆるみ、冷やした茶は最後まで高く残っています。

結論は、短く置くなら冷やし、長く置くなら袋と空気の入れ替えと冷蔵をそろえる、というものでした。試料は煎茶で、資料で言えるのは煎茶の香りについてまでです。香りのつぎは、成分の側でしょう。

表 8-3-1保存条件ごとの香気の審査点(煎茶・20点満点)

保存条件半年後1年後1年半後
対照(−80℃・ガス置換・アルミ袋)141414
25℃・大気・透明袋(No.4)1389
25℃・大気・アルミ袋(No.1)131010
5℃・大気(袋4種)13〜141211〜12
試料は煎茶で、ほうじ茶ではありません。水上裕造・山口優一(2013)茶業研究報告116 表2より作表。試料=2009年4月24日に摘採したやぶきたから作った弱い火入れの煎茶、各50g、暗所保存。値は標準審査法(各項目20点満点)の官能評価のうち香気の点で、成分の測定ではありません。保存前の香気は14点。成分(カテキン・カフェイン・アミノ酸)を測ったのは半年後と1年後までで、1年半後は官能検査だけです。透明袋(No.4)はガスバリア性が4種の袋のうちいちばん低いもの。5℃・大気の行は、袋4種の値の幅です。

渋みのもとは、そのままに

同じ袋の茶を淹れて、湯のみをのぞきこみます。カテキンやカフェイン、アミノ酸は、置いてもほとんど動かないのです。

いちばん悪い条件の暖かい部屋でも、目立った変化はなかったと報告は書いています。ただ、成分を測ったのは途中までで、最後の審査は舌と鼻だけでした。

しかも煎茶での結果で、ほうじ茶に同じ数字があてはまる保証はありません。報告した側も、すぐに現場へあてはめられるものではないと断っています。資料で言えるのは、ここまでです。つぎは、香りがほかの匂いとまじる話でしょう。

薄れる匂いと、うつる匂い

香辛料の瓶のとなりに、茶の袋が置かれています。香りが薄れるのと、ほかの匂いがうつるのは、別の失敗なのです。

日本茶の審査の言葉にも、二つは別の語として並んでいます。高い温度や長く空気にさらしたときは、「湿り臭」「変質臭」です。ほかの香りを吸ってしまったときは、「移り臭」「異臭」と呼ばれます。

ただ、これは荒茶の保管について、煎茶と玉露の審査で整えられた言葉です。ほうじ茶の香りを評価する公的な言葉は見当たらず、資料で言えるのはここまでです。最後は、売る側の案内でしょう。

日数より、置き場所の話

店の袋の裏には、置き場所の言葉が小さく並んでいます。売る側の案内は、日数より置き場所に寄っているのです。

古くからの茶舗の案内でも、避けるものとして空気や湿気、光、温度の変化が挙がります。出荷の直前に焙じて、小さな袋に閉じこめると書く店もあります。どの店も、焙じたての香りが何日もつかは書いていません。

未開封の賞味期限を書く店はありますが、それは商品の期限で、香りの落ちる速さではありません。資料で言えるのは、落ちる順番までです。どこに置くかは、あとの章に続きがあります。数字と試験の条件は、このあとにまとめて置いておきます。

数字でくわしく

保存の試験
保存の試験は、水上裕造・山口優一の2013年の報告(茶業研究報告116)です。2009年4月24日に摘んだやぶきたの、弱い火入れの煎茶を暗所に置いています。袋のガスバリア性、ガス置換の有無、25℃と5℃を組み合わせ、半年ごとに標準の審査法にかけました。
香気の点
香気の点は20点満点で、保存前は14点でした。25℃の大気中に透明袋で置いたものは、1年でいちばん低いところまで下がりました。5℃なら、1年半後も11〜12点で残っています。値は表 8-3-1にあります。
試験の結論
結論は、半年なら5℃の冷蔵、1年ならガスバリア性の高い袋とガス置換と5℃の冷蔵が要る、というものです。
成分の測定
成分(カテキン・カフェイン・アミノ酸)を測ったのは、半年後と1年後です。1年半後は官能検査だけでした。温度25℃大気という劣悪な環境でも、目立った変化は認められなかったとされています。
審査の言葉
審査用語は、農研機構 野菜茶業研究所の「日本茶の品質評価の現状と展望」によります。荒茶の保管について、普通煎茶と玉露の審査用語として整理されたものです。
店の案内
空気と湿気と光と温度の変化を挙げるのは、丸八製茶場です。日光と高温と湿気と強い匂いを避けるよう書くのは、一保堂茶舗です。出荷の直前に焙じて個包装に閉じこめると説明するのは、芭蕉園茶舗です。
賞味期限と章
賞味期限は、丸八製茶場が未開封で製造日から3か月としています(第7章)。置き場所の話は、第12章で扱います。