夏のあいだ、冷蔵庫の下の段にはポットが入っています。夜のうちに茶葉と水を入れておくと、朝にはうすい琥珀色がついています。飲むと、湯で淹れたものより軽いのです。
この文章では、温度を下げたときに出るものと出なくなるものを、せん茶の測定、ほうじ茶の測定、売る側の案内の順にたどります。
朝のポットの、軽い味
ポットを傾けると、冷えた茶がグラスの内側を白く曇らせます。温度を下げると、渋みのもとの一部とカフェインは出にくくなり、アミノ酸はよく出るのです。
ただ、この順番が測られているのは、焙じる前のせん茶です。焙じた茶には、狙いたいうま味のもとが、ほとんど残っていません。
この測定は、せん茶での順番を示しています。順番のつぎは、渋みのもとの二つの顔でしょう。
重い渋みと、軽い渋み
冷たい茶を口にふくむと、舌のうらの渋みがやわらいで感じられます。渋みのもとには重いほうと軽いほうがあり、重いほうは冷たい水にほとんど溶けないのです。
国の研究機関がせん茶で測った数字では、冷たい水に置いた量を、熱めの湯で短く淹れた量と比べています。重いほうは五分の一ほどにとどまり、軽いほうとの差がはっきり出ました。カフェインはその中ほどで、氷水にするとさらに下がり、うま味のもとは高いまま残ります。
その割合は、長く置いても変わらなかったと報告されています。下の図は、焙じる前のせん茶での目安です。渋みのつぎは、冷たい水とカフェインの話でしょう。
冷たい水でも、カフェインは
冷蔵庫のポットの中でも、茶葉はゆっくりと開いていきます。冷たい水なら、カフェインが出ないわけではないのです。
常温ほどの水でかき混ぜて測った報告があります。短いうちに、カフェインも軽い渋みのもとも、茶葉の七割を超えて溶け出していました。もっと冷たい水で出したせん茶でも、数時間のうちにカフェインの一部が溶け出しています。
どちらも、せん茶を試料にした測定です。冷たい水でも、カフェインは溶け出しました。せん茶のつぎは、焙じた茶の湯のみでしょう。
焙じた茶に、のこらないもの
焙じた茶葉は、袋を開けたときから香ばしい匂いがします。焙じた茶には、低い温度で引き出したいうま味のもとが、もうほとんど残っていないのです。
焙じた茶を試料にした水出しの研究は、見当たりませんでした。県の試験場の数字では、うま味のもとは浅く焙じても荒茶の一割に届かず、それより深いものでは検出されていません。緑茶で低い温度が効くのは、冷たい水にもよく出るアミノ酸を狙えるからです。
ほうじ茶で温度を下げるのは、引き出す工夫ではなく、出るものを減らす工夫になるのでしょう。成分のつぎは、売る側の案内の濃さでしょう。
水出しの案内は、うすめ
グラスの氷が、からりと鳴ります。売る側の案内は、水で出すものと、熱湯で淹れて氷に注ぐものに分かれます。水で出す案内は、急須の案内より薄い側にあるのです。
水で出す案内を並べると、置く時間は数十分から数時間までひらきます。茶葉の量を出している案内では、急須で淹れる案内より、水に対する葉がはっきり少なめでした。氷に注ぐほうは、熱い湯で短く淹れる組み立てです。
だから「水出しはカフェインが少ない」と言うとき、動いているのは温度だけではありません。溶け出す割合と、一杯に入っている量は、分けて見るほうがよいのです。その分け方は第1章で扱っています。くわしい数字は、このあとに置いておきます。
数字でくわしく
- 冷水での溶け方
- 農研機構の物部真奈美による煎茶の実測です(JARQ 52(1)、2018年)。80℃で2分淹れた量を100とし、10℃の水に1時間置いた量と比べています。エピガロカテキンは約70、エピガロカテキンガレートは約20、カフェインは約50でした。
- 氷水での溶け方
- 同じ報告で、0.5℃の氷水に1時間置くと、カフェインは20未満、テアニンは約80でした。それ以上長く置いても、この割合は変わらなかったとしています。
- 20℃の水
- 堀江秀樹ほかの2001年の茶業研究報告です。一番茶の荒茶1gを、20℃の水500mLで撹拌しながら測りました。20分後には、カフェインも軽いほうの渋みのもとも、茶葉に含まれる量の70%を超えて溶け出していました。
- 7〜8℃の水出し
- 同じ報告が引く別の測定では、水出し煎茶で、2時間のうちにカフェインの20〜50%が溶け出しています。
- テアニン
- 高知県農業技術センター茶業試験場の報告です。一番茶(2013年)の茶葉1.9gを沸騰水200mLで5分抽出し、茶液100mLあたりで比べています。荒茶の21.12mgに対し、浅炒りは1.27mgで、中炒りと深炒りでは検出されませんでした。
- 氷に注ぐ例
- 一保堂茶舗のアイスほうじ茶は、茶葉10gに100℃の湯240mLで、60秒淹れます。
- 水出しの7件
- 水で出す案内7件の置く時間は、20分から3時間でした。茶葉の量がわかる5件では100mLあたり1.0gから1.7gで、急須の案内の1.7gから4.2gより薄い側です。
- 保存
- 農研機構は水出し緑茶について、作ったお茶は冷蔵庫で保存し、一日以内に飲むよう案内しています。

