紅茶の棚に、「焙煎」と書かれた袋がまじっています。火を入れるところは、ほうじ茶とよく似ています。けれど、焙じる前の茶葉の作られ方がちがうのです。
この文章では、紅茶がもとから通る火と仕上げの焙煎を分け、二つの茶園の説明から甘みと香りの言葉をたどります。
紅茶は、もう火を知っている
紅茶の葉を指でつまむと、からりと乾いています。紅茶は、熱を知らないお茶ではないのです。
紅茶づくりにも、乾かす工程があります。茶園の説明でも、熱い風を当てて酸化の酵素を止め、茶葉を乾かすとあります。焙煎紅茶の「焙煎」を、紅茶が初めて熱にふれる工程と読むのは、正確ではないのです。ここで見る焙煎紅茶は、できあがった紅茶にさらに火を入れたものです。
酸化を進める工程、乾かす工程、香りを変える焙煎を分けると、熱の有無だけでは見えないちがいが出てきます。資料で言えるのは、工程を分けて読むところまでです。まずは、ある茶園の説明でしょう。
焙じたあとにも、紅茶らしさ
袋の説明を読むと、香りの言葉と後口の言葉が、別々に並んでいます。焙じたあとにも、紅茶らしさは残ると伝えられているのです。
ある茶園は、夏摘みの紅茶を焙じた焙煎紅茶を紹介しています。説明は、コクのある甘みと焙煎の香りに加え、その茶園らしいすっきりした後口にもふれています。水出しでも甘く飲めるというのも、茶園の説明です。
焙煎の香りだけで、味わいを言い表してはいないのです。飲みはじめの印象と後口を分け、焙じたあとの紅茶らしさを伝えています。焙煎で原料の個性がそろうと読むと、この説明をとりこぼすでしょう。資料で言えるのは茶園の言葉までで、つぎは強く焙じた紅茶の話です。
強い火のあとの、果物の言葉
強く焙じた紅茶の説明に、ももやぶどうの名前が出てきます。焦げた匂いだけが、焙煎の行き先ではないのです。
別の茶園は、夏摘みの紅茶を強く焙煎した商品を出しています。強い焙煎で甘い香りを引き出し、果物のような紅茶に仕上げたと説明しているのです。焙じる前のすっきりした飲み口に対し、焙じたあとは重くしっとりした味わいだといいます。
ももやぶどうは、香りを伝えるためのたとえです。果物を加えたという意味でも、焙煎紅茶がみな同じ香りになるという意味でもありません。資料で言えるのは、その一つの商品の説明までです。つぎは、ほうじ茶との分かれ目でしょう。
分かれ目は、焙じる前に
緑の茶葉と紅茶の葉を並べると、色のちがいはひと目で分かります。ほうじ茶と焙煎紅茶の差は、焙じるより前にあるのです。
大手の茶のメーカーは、ほうじ茶を、煎茶や番茶、茎茶などを強い火で炒ったお茶と説明しています。一方、ここでの二つの商品が焙じるのは、酸化を進めて作った紅茶です。緑茶は早いうちに熱で酵素を止め、紅茶は酸化を進めるので、出発点がちがうのです。
焙煎という工程が同じでも、紅茶の酸化をさかのぼって緑茶に戻すわけではありません。何を焙じたかを確かめると、両方を同じ棚に置きながら、ちがいも保てます。資料で言えるのは、作り方の順番までです。最後は、甘いという言葉のほどき方になります。
甘い香りと、甘い味
湯のみを鼻に近づけたときと、口にふくんだときでは、届くものがちがいます。「甘い」という一語は、香りと味と後口に分けて読めるのです。
商品の説明には、甘い香り、甘み、後口といった言葉が並んでいます。鼻で感じる香りと、口の中の印象と、飲み終えたあとの印象は、別の場所の話です。分けて書きとめると、一語の「甘い」にまとめていたものが、くっきりしてきます。
ここでの味の言葉は茶園のもので、協会が飲んで確かめた評価ではありません。説明どおりの言葉を見つけることが、正解ではないのでしょう。どこにちがいがあったかを比べるところに、めずらしいお茶の楽しさがあるのです。数字と出どころは、このあとにまとめて置いておきます。
数字でくわしく
- 紅茶の乾燥
- 高温の熱風を当てて酸化酵素の活性を止め、茶葉を乾かすという説明は、茶ノ実鶴園によります。
- 仙霊の焙煎紅茶
- 兵庫県神河町の仙霊が、夏摘みの紅茶を焙じた「焙煎紅茶」を紹介しています。
- 仙霊の味の説明
- コクのある甘み、焙煎の香り、爽やかですっきりした後口を挙げています。水出しでも甘く飲めるというのも、同社の説明です。
- 山本園の紅茶
- 静岡の牧之原山本園の「ほうじ香り紅茶」は、べにふうきの夏摘みを焙煎した商品です。
- 山本園の香り
- 強焙煎で甘い香りを引き出し、ももやぶどうのような果実の香りに仕上げたと、同園は説明しています。
- ほうじ茶の説明
- ほうじ茶を、煎茶や番茶、茎茶などを強火で炒ったお茶とする説明は、伊藤園によります。
