同じ店の別の棚に、烏龍茶と紅茶が並んでいます。袋を手に取ると、こちらにも「焙煎」「烘焙」と火の言葉が出てきます。茶葉の色も、ほうじ茶によく似た茶色です。数歩動いただけで、同じ言葉が別の国のお茶についているのです。

この文章では、火が入る位置、火の目的、かかる時間、香りの行き先を、順に見ていきます。

乾いたあとの、もう一度の火

茶色の葉を指でつまむと、ほうじ茶と同じように軽く乾いています。烏龍茶も焙煎紅茶も、乾いたあとにもう一度火に当たるのです。

工程を並べると、どちらも乾いたあとの葉にもう一度火を入れています。ただ、かかる時間を比べると、炭火で焙じる岩茶はほうじ茶と桁がちがうのです。資料で言えるのは、火の位置がそろうところまでです。まずは、海の向こうの烏龍茶の工程でしょう。

工程表に、もう一度の「乾燥」

工程表を上から読むと、「乾燥」の文字がくり返し出てきます。烏龍茶では、乾いたあとにもう一度火が入るのです。

海の向こうの茶の研究機関が紹介する烏龍茶は、しおれさせ、熱で止め、乾かし、丸めて作ります。最後が乾燥と焙煎で、日本の火入れと同じ形なのです。

目的も一つではありません。同じ機関の資料は、日持ちをのばし、青くささや雑味を直し、その茶らしい香りを与えることを挙げています。資料で言えるのは、目的を並べた説明までです。目的のつぎは、火にかける時間でしょう。

秒と分の火、時間の火

炭火で焙じる岩茶の説明では、時間が「時間」の単位で書かれています。かかる時間は、ほうじ茶とは桁でちがうのです。

茶を売る店の説明では、岩茶の炭火の焙煎は一回でも半日近くかかります。回を重ねると、合わせた時間はさらに長くなるといいます。ほうじ茶の焙煎は、研究の実験では秒と分の世界でした。

資料で言えるのは、店の説明と実験の値を並べるところまでです。時間のつぎは、紅茶の棚でしょう。

表 5-3-1乾いたあとの火が入る位置と、かかる時間

茶と工程工程の並び(乾いたあとの火を太字の位置に置く)かかる時間出どころ
ほうじ茶の焙煎火入れを済ませた煎茶・番茶を焙じる40〜420秒(業界団体の解説では10分以上)Sasakiら2020/GJTA(業界団体)
日本の煎茶の火入れ荒茶→選別→火入れ→合組20分〜5時間(火入れ機の三方式)山口2006(工程)/塩野1974(時間)
台湾の凍頂烏龍茶日光萎凋・室内萎凋→殺青→初乾→団揉→乾燥・烘焙記載なし農業部 茶及飲料作物改良場(台湾)
紅茶(焙煎紅茶)萎凋→揉捻→発酵→乾燥→(焙煎紅茶のみ)焙煎記載なし茶ノ実鶴園(工程)/仙霊・牧之原山本園(商品説明)
武夷岩茶の炭焙(中国福建省)記載なし1回8〜12時間、複数回で合計最大36時間Path of Cha(茶の販売業者)
乾いたあとにもう一度火が入る工程を、茶の種類ごとに並べた。時間は出典に書かれた値だけで、換算・推定はしていない。両端どうし(40秒と5時間)では桁が二つ違う。ただし業界団体の解説の「10分以上」や1999年の研究の10〜15分(表 5-4-1)を入れると、焙煎と透気式火入れ(20〜25分)の時間は近づき、時間だけでは線を引けない。「(焙煎紅茶のみ)」は商品説明が根拠で、紅茶一般の工程ではない。ほうじ茶の「10分以上」と武夷岩茶の時間は、利害関係者(業界団体・茶の販売業者)の解説。出典:Sasakiら(2020)、GJTA、山口優一(2006)、塩野輝雄(1974)、農業部 茶及飲料作物改良場(台湾)、茶ノ実鶴園、仙霊、牧之原山本園、Path of Cha(2019)。

焙じた紅茶と、果物の香り

紅茶の棚にも、「焙煎」と書かれた袋がまじっています。焦げた匂いだけが、焙煎の行き先ではないのです。

焙煎紅茶は、できあがった紅茶にもう一度火を入れたものです。紅茶づくりにはもともと熱い風で乾かす工程があり、その焙煎は初めての火ではありません。ある茶園は夏摘みの紅茶を焙じ、コクのある甘みと焙煎の香りを挙げています。別の茶園は強く焙煎し、ももやぶどうのような甘い香りに仕上げたと説明しているのです。

起きている反応も、ほうじ茶の香りが生まれるときと同じ系統です。岩茶の焙煎を調べた報告は、しまっておくあいだに焙煎の香りが花の香りへ移ると述べています。ただ、品種も工程もちがうので、数字はそのまま移せないのです。

「焙煎」という言葉が店ごとに何を指すかは、つぎの章で扱っています。数字と出どころは、このあとにまとめて置いておきます。

数字でくわしく

台湾の烏龍茶
台湾の農業部 茶及飲料作物改良場が紹介する凍頂烏龍茶です。工程は萎凋、殺青、初乾、団揉と進み、最後が乾燥と焙煎(烘焙)です。
工程の表
乾いたあとの火が入る位置は、表 5-3-1に茶の種類ごとに並べています。
烘焙の目的
同じ改良場が特色茶の加工をまとめた資料にあります。貯蔵期限を延ばす、初製の茶の青臭さや雑味を直す、その茶らしい香りを与える、の三つです。
岩茶の時間
武夷岩茶(中国福建省)の炭焙は、茶の販売業者の解説によります。焙煎1回が8〜12時間、複数回で合計最大36時間とされています。
ほうじ茶の時間
ほうじ茶の焙煎は、石川の実験で40秒から420秒でした。
紅茶の乾燥
紅茶づくりの乾燥で高温の熱風を当てるという説明は、茶ノ実鶴園によります。
二つの茶園
夏摘みの紅茶を焙じるのは、兵庫県神河町の仙霊です。べにふうきを強く焙煎し、ももやぶどうのような香りと説明するのは、牧之原山本園です。
香りの移り
保存のあいだに焙煎の香りが花の香りへ移ると述べたのは、武夷岩茶の焙煎を調べた2022年の報告です。