コーヒー豆を焙じると、ぱちぱちと小さな音がはじけます。ほうじ茶にもコーヒーにも、浅煎り・深煎りという言葉があります。けれど同じ名前なら同じ温度や時間で作れる、というわけではないのです。

この文章では、焙煎機の説明書を手がかりに、時計、音、色、温度を測る場所の順に、焙じる途中の変化を見ていきます。

重なりあう、三つの時間

焙煎機の説明書をひらくと、浅煎り、中煎り、深煎りの目安の時間が並んでいます。その時間の幅は、たがいに重なっているのです。

ある家庭用の焙煎機の説明書では、三つの焙煎度の時間の幅が、少しずつずれながら重なっています。たとえば十二分は、三つのどの幅にも入ります。この表は、何分たてばこの焙煎度、と決める判定表ではありません。

同じ機種の説明の中でも、経過した時間だけで、仕上がりの名前は一つに決まらないのです。資料で言えるのは、表の数字から読みとれるところまでです。時計のつぎは、豆から聞こえる音でしょう。

はぜる音が、知らせること

焙煎の途中で、豆がぱちぱちとはぜ始めます。その音は、豆の内側で起きている変化の知らせなのです。

焙煎中には、一度目のはぜ、続いて二度目のはぜの音が聞こえると説明されています。豆の中にガスがたまり、膨らむときに鳴るのだそうです。表面の色だけでなく、豆の変化を耳でもとらえるわけです。

時計は加熱を始めてからの経過を示し、音は豆に起きていることを伝えます。二つは別の手がかりです。資料で言えるのは、コーヒー豆についてまでです。豆のつぎは、茶葉の側でしょう。

茎の色が、移っていく

焙じるにつれて、茶の茎の色がうすい緑から少しずつ赤みを帯びていきます。ほうじ茶では、豆のはぜる音を終わりの合図にはできないのです。

茶で扱うのは葉や茎で、コーヒーで扱うのは豆です。はぜる音は豆の変化の目安で、茶を焙じ終える合図にそのまま持ちこむことはできません。茶の側の研究では、焙じるにつれて茎の色が黄みのある緑から、赤みのある黄色へ移る様子がとらえられています。高い温度で短く焙じた茎では、膨らみも見られました。

豆を音で読むのに対して、この研究では色や形も手がかりになっています。資料で言えるのは、茎の茶での観察までです。色のつぎは、温度を測る場所でしょう。

その温度は、どこの温度

機械の表示窓に、温度の数字が小さく光っています。同じ数字でも、どこを測った温度かがちがえば、同じ条件とは言えないのです。

予熱の温度、胴の内壁の温度、原料の表面の温度は、別の場所や段階の情報です。時間と同じように、温度にも前後の事情があります。資料に温度を見つけたら、機械の名前、測っている場所、予熱か焙煎中かを一緒に探します。

書かれていない項目は推して埋めず、分からないものは比べずに置いておきます。この読み方は、ほうじ茶の機械や研究の資料にも通じるのでしょう。温度のつぎは、浅い・深いという名前そのものです。

同じ名前、ちがう作り方

茶の袋にもコーヒーの袋にも、「深煎り」の文字が刷られています。同じ言葉でも、同じ作り方を指すわけではないのです。

先に引いた時間は一つの機械の目安で、ほかのコーヒー機器や、ほうじ茶の加熱条件ではありません。比べるなら、まずそれぞれの中で、どんな材料をどんな機械で、どう見きわめて仕上げるかを追います。すると浅い・深いの後ろに、時計、音、温度を測る場所、原料の変化という別々の手がかりが見えてきます。

資料で言えるのは、数字が何を説明して、何を説明していないかまでです。機械と研究の名前は、このあとにまとめておきます。

数字でくわしく

時間の目安
富士珈機「Coffee Discovery」の取扱説明書にある参考値です。浅煎りは約10〜13分、中煎りは約11〜14分、深煎りは約12〜15分です。
重なる時間
12分は、浅煎り・中煎り・深煎りの三つの範囲すべてに入ります。
ハゼの音
焙煎中に1ハゼ、続いて2ハゼの音が聞こえるという説明は、イワタニによります。
音のしくみ
豆の内部にガスがたまり、膨らむときに「パチパチ」と鳴るという説明は、富士珈機のものです。
茶の研究
日本食品科学工学会の論文で、鹿児島県産やぶきた一番茶の茎を使っています。
色と形
焙煎で茎の色は黄緑から黄赤へ変わり、高温で短く焙じた試料では茎の膨らみが観察されました。