茶店の棚に、「富士のほうじ茶」と書かれた袋が並んでいます。封を切ると、乾いた茎の香ばしさがふっと立ちます。けれど、その名前の中に、ひとつだけの焙じ方が入っているわけではないのです。

この文章では、土地の名前と一袋の商品を分けて、茎を選ぶ仕事と、火を通す仕事の順にたどっていきます。

同じ名前の、ちがう袋

富士の名がついた袋を二つ並べると、茶葉の色も形も少しずつちがって見えます。この名前に、決まった焙じ方は入っていないのです。

裾野に畑が散らばるように、茶葉も火の入れ方も、つくり手ごとに分かれています。市の案内でも、茶農家や茶商によって茶葉の種類や焙じ方がちがうと書かれています。だから、いろいろなほうじ茶が並ぶのです。

同じ地域名でも、原料と仕上げが同じとはかぎらない、資料で言えるのはそこまでです。産地を選ぶことと商品を選ぶことは、つながっていても別の段なのです。つぎは、ふもとで生まれた一つの袋の話でしょう。

火を入れる前の、茎の選別

乾いた茎を手のひらにのせると、かさりと軽い音がします。この茶は、焙じる前の選び分けにも手間をかけているのです。

富士山のふもとで、四軒の茶農家が手を取り合って立ち上げたほうじ茶に「凛茶」があります。販売元の説明では、香りを引き出すため、ふだんの選別を何度もくり返します。そうしてえりすぐった茎だけを使うのです。

焙煎の話を読むと、つい機械や温度に目が向きます。ただ、一つのブランドの作り方を、地域全体の代表として読むことはできないのです。茎を選んだあとは、火の通し方でしょう。

芯までとどく、ゆっくりの火

湯のみを両手で包むと、茎のお茶の香ばしさが湯気にのってきます。この茶の仕上がりは、火の通し方と、一度に焙じる量の組み合わせでできているのです。

冬の日だまりが石をしんまで温めるように、遠赤外線の火で茎の芯までじっくり通すと説明されています。焙じるのは特別な機械です。むらなく仕上げるため、少しずつ時間をかけて焙じるそうです。

遠赤外線は火の通し方、少しずつは扱う量の話で、どちらか一つが製法のすべてではありません。資料で言えるのは、いくつもの選択を重ねて仕上げている、というところまでです。名前の出どころは、このあとにまとめて置いておきます。