棚に「加賀棒茶」と書かれた袋があります。土地の名前と、茶の木のどの部分かが、ひとつの名前の中に並んでいます。玉露や煎茶が伝えるのは作り方で、何を摘んだかまでは名前に入りません。加賀棒茶には、そこに部位が入っているのです。
この文章では、このお茶が茎である理由を、始まりの側といまの側に分けて見ていきます。
茎である、二つのわけ
袋の口から、細い棒のような茶葉がのぞいています。茎であるわけは、始まりの側といまの側で別にあるのです。
始まりは、余った茎の使い道でした。いまは、茎を使うことが名前の条件になっています。
二つの答えは、時代のちがう問いに答えています。資料で言えるのは、どちらか一つにまとめられない、というところまでです。まずは始まりの側でしょう。
余った茎の、使い道
茶葉を乾かす工程では、葉からはずれた茎が山のように残ります。この茶は、その茎を生かす工夫から生まれたのです。
国の伝統食の図鑑は、古く城下町の茶商が、茎の使い道を考えたとしています。茶摘みから焙じるまでの工程と、焙じ方の分け方も、同じページに並んでいます。
茎がなぜ余ったのかは、説明が一つに決まりません。手で選り分けた時代の茎は売れなかったという説明と、緑茶の輸出が盛んで余ったという説明があります。どちらも一次資料はなく、資料で言えるのはここまでです。始まりのつぎは、献上の記録でしょう。
表 7-3-1加賀棒茶の工程 ― 茶摘みから焙煎までの5段
| 段 | 工程 | この段で起きること |
|---|---|---|
| 1 | 茶摘み | ― |
| 2 | 蒸す | ― |
| 3 | 揉む・乾燥 | ここで荒茶になる |
| 4 | 選別 | ここで葉と茎が分かれる |
| 5 | 焙煎 | 焙煎方法は3種(直火焙煎/砂炒り/遠赤外線焙煎)、焙じ具合は3段(浅炒り/中炒り/深焙じ) |
献上のための、浅い焙煎
献上の品と聞くと、ひときわ明るい色の茶葉が思い浮かびます。このお茶は、天皇に献上されたことがあるのです。
国のページにも、献上されたことがはっきり書かれています。作り手の会社は、最高のものを、という依頼が届いたと自社の記事に書いています。南の産地の一番摘みの茎を、浅く焙じる新しいやり方で仕立てたそうです。
仕立て方は、作り手自身の説明です。資料で言えるのは、献上の事実と、作り手がそう語っていることまでです。記録のつぎは、いまの名前の決まりでしょう。
いまは、名前が茎を求める
商品の名前は、いまでは登録された決まりに守られています。茎を使うことが、加賀棒茶という名前の条件なのです。
名前の決まりは、その土地で生まれた作り方で、県の中で茎茶を使って仕上げたほうじ茶、としています。茎を使うことは求められていますが、茎そのものの産地は問われていません。
出自の話と、いまの値段の話も別です。茎や芽などは本茶の半分以下の値段だという説明があるいっぽう、同じ作り手の同じ袋では、茎の品と葉の品が同じ値です。資料で言えるのは、安いから茎と、茎だから加賀棒茶が同じ棚に並ぶ、ということまでです。
三つの土地を、渡る茎
焙じたての茎は、ふくらんで、かすかに甘い香りを放ちます。名前の土地が指しているのは、最後に焙じる工程なのです。
よい茎を仕入れるのは、じつはとてもむずかしいと作り手は書いています。献上用の茎を選ぶのは別の産地の製茶会社で、若くやわらかい茎を選り分けます。ふるいで大きさをそろえると、茎の量は二割ほど減ります。
焙じる時間は、ほんのわずかです。資料で言えるのは、茎は南で摘まれ、別の土地で選られ、名前の土地で焙じられる、ということまでです。年と土地の名前は、このあとにまとめて置いておきます。
数字でくわしく
- 始まりの記録
- 農林水産省「にっぽん伝統食図鑑」によります。明治35年(1902年)に金沢の茶商・林屋新兵衛が、副産物の茎の有効利用方法を開発した、としています。
- 余った理由
- 売れなかったという説明は、宇治の茶問屋(桑原善助商店)です。輸出で余ったという説明は、丸八製茶場の代表です。
- 献上
- 農林水産省のページには「昭和58年には加賀棒茶が昭和天皇に献上されている」とあります。
- 作り手の説明
- 丸八製茶場は、1983年に依頼が届き、鹿児島の一番摘みを浅く焙煎したとしています。
- 商標
- 「加賀棒茶」は地域団体商標です。指定商品は「加賀地方を発祥地として、加賀地域に由来する製法により、石川県内で茎茶を使用し仕上げ加工されたほうじ茶」。
- 値段
- 「本茶の半分以下の値段」は、東京都茶協同組合の説明です。同じ価格なのは、丸八製茶場の「献上加賀棒茶」と「加賀ほうじ茶」の60g袋入りです。
- 選り分け
- 献上用の茎を選るのは静岡の製茶会社で、若く柔らかい茎を「みるい棒」と呼びます。ふるいの工程で、茎の量はおよそ2割減ります。
- 焙煎
- 焙じるのはセラミックバーナーで、30秒から40秒です。
- 三つの土地
- 献上加賀棒茶でいえば、茎は鹿児島、選り分けは静岡、焙煎は石川です。
