棚に「加賀棒茶」と書かれた袋があります。土地の名前と、茶の木のどの部分かが、ひとつの名前の中に並んでいます。玉露や煎茶が伝えるのは作り方で、何を摘んだかまでは名前に入りません。加賀棒茶には、そこに部位が入っているのです。

この文章では、このお茶が茎である理由を、始まりの側といまの側に分けて見ていきます。

茎である、二つのわけ

袋の口から、細い棒のような茶葉がのぞいています。茎であるわけは、始まりの側といまの側で別にあるのです。

始まりは、余った茎の使い道でした。いまは、茎を使うことが名前の条件になっています。

二つの答えは、時代のちがう問いに答えています。資料で言えるのは、どちらか一つにまとめられない、というところまでです。まずは始まりの側でしょう。

余った茎の、使い道

茶葉を乾かす工程では、葉からはずれた茎が山のように残ります。この茶は、その茎を生かす工夫から生まれたのです。

国の伝統食の図鑑は、古く城下町の茶商が、茎の使い道を考えたとしています。茶摘みから焙じるまでの工程と、焙じ方の分け方も、同じページに並んでいます。

茎がなぜ余ったのかは、説明が一つに決まりません。手で選り分けた時代の茎は売れなかったという説明と、緑茶の輸出が盛んで余ったという説明があります。どちらも一次資料はなく、資料で言えるのはここまでです。始まりのつぎは、献上の記録でしょう。

表 7-3-1加賀棒茶の工程 ― 茶摘みから焙煎までの5段

段工程この段で起きること
1茶摘み―
2蒸す―
3揉む・乾燥ここで荒茶になる
4選別ここで葉と茎が分かれる
5焙煎焙煎方法は3種(直火焙煎/砂炒り/遠赤外線焙煎)、焙じ具合は3段(浅炒り/中炒り/深焙じ)
農林水産省「にっぽん伝統食図鑑」加賀棒茶の記述から作成(確認日 2026-09-24)。焙煎は最後の段で、葉と茎はその手前の選別で分かれます。出典に書かれているのは工程の順序と分類までで、どの焙煎方法がどの焙じ具合に対応するかは書かれていません。

献上のための、浅い焙煎

献上の品と聞くと、ひときわ明るい色の茶葉が思い浮かびます。このお茶は、天皇に献上されたことがあるのです。

国のページにも、献上されたことがはっきり書かれています。作り手の会社は、最高のものを、という依頼が届いたと自社の記事に書いています。南の産地の一番摘みの茎を、浅く焙じる新しいやり方で仕立てたそうです。

仕立て方は、作り手自身の説明です。資料で言えるのは、献上の事実と、作り手がそう語っていることまでです。記録のつぎは、いまの名前の決まりでしょう。

いまは、名前が茎を求める

商品の名前は、いまでは登録された決まりに守られています。茎を使うことが、加賀棒茶という名前の条件なのです。

名前の決まりは、その土地で生まれた作り方で、県の中で茎茶を使って仕上げたほうじ茶、としています。茎を使うことは求められていますが、茎そのものの産地は問われていません。

出自の話と、いまの値段の話も別です。茎や芽などは本茶の半分以下の値段だという説明があるいっぽう、同じ作り手の同じ袋では、茎の品と葉の品が同じ値です。資料で言えるのは、安いから茎と、茎だから加賀棒茶が同じ棚に並ぶ、ということまでです。

三つの土地を、渡る茎

焙じたての茎は、ふくらんで、かすかに甘い香りを放ちます。名前の土地が指しているのは、最後に焙じる工程なのです。

よい茎を仕入れるのは、じつはとてもむずかしいと作り手は書いています。献上用の茎を選ぶのは別の産地の製茶会社で、若くやわらかい茎を選り分けます。ふるいで大きさをそろえると、茎の量は二割ほど減ります。

焙じる時間は、ほんのわずかです。資料で言えるのは、茎は南で摘まれ、別の土地で選られ、名前の土地で焙じられる、ということまでです。年と土地の名前は、このあとにまとめて置いておきます。

数字でくわしく

始まりの記録
農林水産省「にっぽん伝統食図鑑」によります。明治35年(1902年)に金沢の茶商・林屋新兵衛が、副産物の茎の有効利用方法を開発した、としています。
余った理由
売れなかったという説明は、宇治の茶問屋(桑原善助商店)です。輸出で余ったという説明は、丸八製茶場の代表です。
献上
農林水産省のページには「昭和58年には加賀棒茶が昭和天皇に献上されている」とあります。
作り手の説明
丸八製茶場は、1983年に依頼が届き、鹿児島の一番摘みを浅く焙煎したとしています。
商標
「加賀棒茶」は地域団体商標です。指定商品は「加賀地方を発祥地として、加賀地域に由来する製法により、石川県内で茎茶を使用し仕上げ加工されたほうじ茶」。
値段
「本茶の半分以下の値段」は、東京都茶協同組合の説明です。同じ価格なのは、丸八製茶場の「献上加賀棒茶」と「加賀ほうじ茶」の60g袋入りです。
選り分け
献上用の茎を選るのは静岡の製茶会社で、若く柔らかい茎を「みるい棒」と呼びます。ふるいの工程で、茎の量はおよそ2割減ります。
焙煎
焙じるのはセラミックバーナーで、30秒から40秒です。
三つの土地
献上加賀棒茶でいえば、茎は鹿児島、選り分けは静岡、焙煎は石川です。