夜、やかんを火にかけて、ほうじ茶のカフェインを調べます。国のページと茶商のページで、数字が少しずつちがっています。せん茶の欄にも、ほうじ茶と同じ数字が並んでいます。やかんが鳴りはじめ、湯気が台所の窓をくもらせます。
この文章では、数字が動くわけと重なるわけを、淹れ方の条件、国の表、店のページ、表の版の順にたどっていきます。
茶葉と湯と、温度と時間
急須に茶葉を入れ、湯をそそいで、しばらく待ちます。カフェインの数字が資料ごとに動くのは、この淹れ方が数字ごとにちがうからです。
公表されている値は、どれも決まった淹れ方で出したお茶の、一定の量あたりの重さです。茶葉の量、湯の量、湯の温度、浸す時間。この四つがそろって、はじめて一つの数字になるのです。
その条件は、お茶の種類ごとに別々に決められています。資料で言えるのは、数字ごとに淹れ方がついている、というところまでです。条件のつぎは、国の表の一行でしょう。
同じ値に並ぶ、ほうじ茶とせん茶
国の食品の表を指で下へたどると、ほうじ茶とせん茶の欄に同じ値が並んでいます。同じに見えるのは、別々の淹れ方で測った結果が、同じところに落ちたからです。
ほうじ茶は、茶葉も湯も多めにして、短い時間で出しています。せん茶は、どちらも少なめにして、倍の時間をかけています。中身が似ているから値がそろった、と読むことはできないのです。
別の版の表を引いた国のQ&Aでも、ふたつは同じ値で並んだままです。資料で言えるのは、表の上で同じに見える、というところまでです。表のつぎは、茶商のページでしょう。
店のページの、となりあう数字
棒茶の袋を開けると、乾いた茎の香ばしさが立ちのぼります。売り場のページでは、表から引いた値と、店が自分で測った値がとなりあうのです。
ある茶商のページは、ふつうのほうじ茶を国の表の値で示しています。そのとなりに、自分の棒茶を県の試験場で測った、すこし低い値を置いています。いれ方の茶葉と湯の比は表と同じで、ちがうのは湯の温度です。
低い理由も、そのページ自身が書いています。原料が葉ではなく、主に茎だからです。資料で言えるのは、店の示す理由までです。店のつぎは、表そのものの版のちがいでしょう。
版が変わって、増えた一行
古い食品の表を本棚から出すと、乾いた紙のにおいがします。版が変わって動いた数字もあり、それは茶葉そのものの一行です。
近ごろの増補で、ほうじ茶の茶葉の行が新しく加わりました。それでも出回っている解説の多くは、その前の版を引いたままなのです。同じほうじ茶のカフェインでも、茶葉の値と淹れたお茶の値は別のものです。
どの版を引いたかが書かれていない解説では、版のちがいを確かめられません。版のつぎは、いつ測ったかの話でしょう。
いつ測ったかの、空白
表の注を、指でたどってゆっくり読みます。番茶やほうじ茶の淹れた液の値は、新しい分析と古い版の値の両方から決めたと書かれているのです。
その古い版は、ずいぶん前に出たものです。どの成分が古い版から引き継がれたのかは、本文のどこにも書かれていません。
測った時期まで並べて比べることは、いまの表からはできないのです。数字と条件は、このあとにまとめて置いておきます。湯のみの湯気が細くなるころ、いつもの濃さの一杯ができあがります。
数字でくわしく
- 国の表のほうじ茶
- 農林水産省「カフェインの過剰摂取について」では、ほうじ茶の浸出液は100mLあたり20mgです。成分表の表記は0.02g/100mLで、条件は茶葉15gに90℃の湯650mL、0.5分です。
- 国の表のせん茶
- 同じ表のせん茶も20mgです。条件は、茶葉10gに90℃の湯430mL、1分です。
- 国のQ&A
- 厚生労働省のQ&Aの表は、2015年版(七訂)を引いています。そこでもせん茶20mg、ほうじ茶20mgで、浸出条件も同じものが添えられています。
- 店の棒茶
- 茶商のページは、七訂を引いて一般的な焙じ茶を20mgとしています。となりの自社の棒茶は、石川県工業試験場が2016年に測った16mgです。
- 店のいれ方
- 同じページのいれ方は、熱湯で茶6gに260mLです。湯100mLあたり茶葉2.3gで、成分表と同じ比です〔計算値〕。成分表の湯は90℃、店のいれ方は熱湯です。
- 表の版
- 2023年の増補で「ほうじ茶(茶葉)」の行が加わり、100gあたり1.5gの値が付きました(章末コラム)。出回っている解説の多くは、その前の2020年版(八訂)を引いています。
- 測った時期
- 番茶・ほうじ茶・玄米茶・ウーロン茶の浸出液の値は、「分析値及び四訂成分表収載値に基づき決定した」とあります。四訂の公表は1982年です。
